ねえ、・・・・・・あたくし、あなたがもしあたくしよりもずっと若い、ずっときれいな女を好きになって、その人と結婚でもなすったら・・・・・・。
『葵上』
深夜の病院の一室。妻である葵が急な発作により入院したとのしらせを受け、出張先から駆けつけた光のもとに、かつての恋仲である六条康子が現れる。康子はかつて二人が幸福だった頃の思い出を語り、光に復縁をもちかける。
不調和な愛の物語
三島由紀夫「近代能楽集」より、源氏物語の第九帳「葵」を素材とした「葵上」、平家物語「海道下」のエピソードによる「熊野」、俊徳丸伝説を下敷きにした「弱法師」の三作を上演。
三島由紀夫の作品の多くがそうであるように、この三作もまた二項対立で分析される。それは、複雑で感情的で未整理な内面を持った当事者と、彼(彼女)と論理的に向き合おうとする傍観者の二者による愛の物語である。この二者が見せる対峙は三作とも傍観者の悲劇的結末を予感して断ち切られる。
流麗な文体で綴られたこの構造の物語にアクチュアリティをもたらそうと考えた時に、直感したキーワードは次のようなものだ。「反知性主義」「ポストトゥルース」「インスタ映え」「イイね」など。そしてビジュアル的発想としての「psychotropical」
これらを全て盛り込めるかどうかはわからないし、無理して盛り込むこともないのだが、これらのキーワードと役者の身体、そしてテキストの文体と構造の交差点に現代を照射するなにかがあるに違いないと、そう確信し創作に向き合っている。
大信ペリカン
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平成29年11月4日(土)19:00開演
11月5日(日)14:00開演
(開場は開演の30分前)
作:三島由紀夫「近代能楽集」
構成・演出・舞台美術:大信ペリカン
<出演>
佐藤隆太
鳥居裕美(捨組)
サトウマナミ
那須大洋(劇団120◯EN)
乾優香里
久田宗一郎
<スタッフ>
照明:麿由佳里 薄葉彩佳(劇団瞬)
衣装:佐藤愛美
制作:小田島達也
<協力>
主催:サブテレニアン
製作:シア・トリエ/オフィス・トリキング
桜が急に色を失くした。白いお葬いの花のようになってしまった。砂場に黒い点々が。雨だわ。
『熊野(ゆや)』
豪勢なアパートの一室に大実業家の宗盛とその愛人、熊野がいる。春の花盛りの日曜日。宗盛は自らの土地に咲く一目千本の花見に熊野を誘う。しかし郷里で病気の母が気がかりな熊野は、見舞いに行きたいと宗盛に申し出る。
この世はもう終わっているんだから。わかりますか。あなたが幽霊でなければ、この世界が幽霊なんだ。
『弱法師(よろぼし)』
晩夏の午後、家庭裁判所の一室。幼い頃、戦火により失明した俊徳の親権を巡って、生みの親である高安夫妻と育ての親である川島夫妻が争っている。話し合いは平行線をたどり、調停委員の桜間級子は俊徳を部屋に呼んだ。